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5分で分かる!デジタルフォワーダーと、日本の貿易DXの流れと未来 | 仕事術

貿易という仕事はかねてよりとにかく書類と手続きが多かった。一つの商品を他国から購入し、日本に輸入するということであっても、実は沢山の会社と人が作業をしている。

異国の地の人たちと取引をするうえで様々なリスクを避けるために、数多くの取り決め(ルール)がなされ、また数多くの業者が間に入り、数多くの紙が使われてきた。


今回のそんな煩雑な貿易の仕事がどのようにDX化していき、スタートアップや大手企業が主導をめぐって戦う「貿易DX戦国時代」の流れが今後どのようになっていくのかを解説したいと思う。

実際は煩雑な貿易取引

まず簡単にだが商品が海外から日本に届くまでの関係各社と、1つの貿易取引で使われる書類を紹介していこう。

貿易取引に関わる関係各社

輸出国
・輸出者
・銀行
・倉庫業者
・トラック会社
・船会社/航空会社
・フォワーダー
・通関業者
・港湾
・税関

輸入国
・税関
・港湾
・通関業者
・フォワーダー
・船会社/航空会社
・倉庫会社
・トラック会社
・銀行
・輸入者

貿易取引では商品の販売者(輸出者)と購入者(輸入者)の間に、これだけ多くの会社が取引に参加している。

上記を見たら分かるように輸出側と輸入側のそれぞれの国で、同じ業者を含めて取引を進めているのだ。そしてこれらの業者間で以下の書類が必要とされる。

貿易取引に関わる書類

使用される書類
・PO
・L/C
・Shipping Instruction(SI)
・Dock Receipt (D/R)
・Invoice
・Packing List
・原産地証明
・製品に関する書類(原材料表、製造工程表、MSDSなど)
・B/L、AWB
・Arrival Notice
・D/O

たった1つの商品の取引であったとしても、これくらいの関係各社と書類が動いているのだ。

デジタルフォワーダーについて

さて簡単に貿易取引の大枠を説明した所で、まず貿易DXで登場してくる「デジタルフォワーダー」という存在について説明しよう。このデジタルフォワーダーが使用するデジタルプラットフォームが今後の貿易業界がどう取り入れていくかポイントとなっている。


まずデジタルフォワーダーというのは、一般的なフォワーダーに比べて本船のBooking、貨物の動静確認、書類の受け渡しなどを独自のクラウド型プラットフォームを使って行う組織だ。

参考までにだが世界の有名なデジタルフォワーダーも紹介しておこう。

世界のデジタルフォワーダー
・Flexport(北米)
・sennder(ドイツ)
・Forto(ドイツ)
・Zencargo(イギリス)
・Airspace(北米)
・Nowports(メキシコ)
・cargo.one(ドイツ)
・Freightwalla(インド)
・OnePort 365(ナイジェリア)

一般の貿易会社の仕事

デジタルフォワーダーの説明に解像度をもたせるために、一般の貿易会社の仕事についても少し触れておく。

上記に貿易で登場してくる関係各社と使用される書類を紹介したが、一般の貿易会社ではそれぞれの組織で同じ情報をPCで手入力をしている。非常に非効率である。

全ての関係会社で入力したデータをPDFや紙などにして、次の関係会社にメールで送付しているのだ。


もし書類に訂正事項があれば、またメールで連絡をして各社で書類を修正し合うことになる。またメールの量も膨大となり、どのメールに必要なファイルを送ったかを探す作業に時間が取られる。

デジタルプラットフォームの特徴

これを解決してくれるのがデジタルプラットフォームだ。クラウド上に共通の管理画面があり、そこに荷主が入力したデータ(SI)を元に各種の書類が作成され、保存されていく。いちいちメールで送る必要はない。


修正事項があれば、プラットフォーム上で修正をしておけば関係各社が情報伝達をして、書類を修正する必要がないのだ。

これは貿易の仕事において革命的な効率化といえるだろう。

船会社のオンラインBooking

ここで合わせてお伝えしたいのが船会社のオンラインBookingサービスの開始である。フォワーダーや大手荷主はかつては船会社の営業マンやCSにBookingの連絡をメールなどで送って本船予約をしていた。

しかし船会社もDX化による効率化を進めており、ホームページからのオンラインBookingを推奨しているところが多くなっている。


船会社がこのようにオンラインBookingを始めたら、船会社から船のスペースを借りて事業運営しているフォワーダーは、その存在価値が薄れてしまうのだ。

船会社とフォワーダーのDXの違い

そこで違いとして、フォワーダーは複数の船会社のBookingをプラットフォーム上で受けられるようにする。また船だけでなく、トラックや倉庫、通関対応も出来るようにする。船会社の自社のオンラインプラットフォームでは自社のBookingしか受け付けていないから。

そしてフォワーダーのプラットフォームではより機能を充実させ、FCLだけでなく、LCL、航空輸送、列車での輸送にも対応できるようにしている。


このように複合輸送が出来るフォワーダーの強みを、デジタル化でも引き続き利用出来るのが大きな違いと言えるだろう。

日本の貿易DXプレイヤー

ではここから日本のデジタルフォワーダー、また貿易DXのプラットフォームのプレイヤーたちを紹介する。

日本初のデジタルフォワーダー

2016年に日本でも初のデジタルフォワーダーが誕生したShippioというスタートアップの会社がある。ソフトバンク系列のビジョンファンドから大型出資を得たことで注目され、最近ではシリーズBで16.5億円の資金調達をした会社だ。


Shippoというスタートアップのフォワーダーは、僕が知る限りでは最初は独自開発したプラットフォームを同業他社に展開していたが、自社でもフォワーディングをするようになった。

プラットフォームを有している優位性で顧客開拓を続けていたという印象だ。

大手フォワーダーのデジタル化

Shippioに続いて日本国内の大手フォワーダーたちも自社でプラットフォームの開発を進めていた。日本通運、郵船ロジスティクス、日立物流(ロジスティード)、三井倉庫、鴻池運輸、などなど。

コロナ禍前後から大手各社が独自のプラットフォームを次々とリリースしていった。大手企業には十分な資本があり、更に既存の顧客も持っている。


国際輸送は規模の優位性が大きく働くビジネスだ。だから大手がデジタル化を進めていくことで、Shippioのデジタルプラットフォームの優位性が目減りしたと見て取れる。

トレードワルツ(Trade Walz)

日本の貿易デジタルプラットフォームで忘れてはいけないのが、トレードワルツだ。

NTTデータ/三菱商事/豊田通商/東京海上日動/三菱UFJ銀行/兼松/損保ジャパンの業界横断7社が共同出資してスタートされた貿易DXプロジェクト。

機能としてはブロックチェーン技術を利用した貿易取引の進捗確認、コミュニケーション、書類管理。そしてNACCSとも連携しておりトレードワルツのプラットフォームから通関申告まで出来る。


このブログ記事を書いている現在では船社Bookingはまだ出来ないが、その機能は追加されていく予定だ。これも船会社がAPIを解放すれば出来ることなので時間の問題だろう。

サイバーポート(Cyber Port)

そしてもう一つ、国をあげての貿易DXのプラットフォームで国土交通省港湾局が構築したサイバーポート


サイバーポートは、紙、電話、メール等で行われている「民間事業者間の港湾物流手続き」を電子化することで業務を効率化し、港湾物流全体の生産性向上を図ることを目的としたもの。

国が主導で港湾物流を円滑にするもので、APIを解放しており民間のプラットフォームと連携が可能なのが特徴だ。

NACCSと繋がる

そして大きなポイントとして、トレードワルツとサイバーポートがNACCSと繋がったということだ。

NACCSは輸出入される貨物について、税関その他の関係行政機関に対する手続や、関連する民間業務をオンラインで処理するシステムである。


上述したように大手企業も独自でプラットフォームを開発をしてきた。しかしNACCSとの連携は出来ていない。そこで大手企業もサイバーポートと連携し、NACCSとの連携が可能にする(と僕は理解している)。

NACCSと連携することのメリット

通関手続きをする時に利用するシステムであるNACCSだが、入力する項目の多くはB/L、Invoice、Packing Listなどの船積み書類に記載されている情報だ。


それは最初に荷主がSIに入力をすれば、NACCSにまで同じ情報が入力される仕組みになっている。

プレスリリースによるとサイバーポートとNACCSが連携する事で入力項目の8割が削減できるとのことだ。

中小企業にも貿易DXが浸透していく

これまではShippioのようなスタートアップ企業以外では、大手企業のデジタル化しかなかったわけだ。

トレードワルツの利用は当初は大手企業にのみ展開されてきたが、それが中小企業にまで広げるというニュースがあった。

トレードワルツ × Beyond TheBook

フォーカスシステムズというプライム上場のIT企業がBeyond TheBookというプラットフォームを開発した。それとトレードワルツが連携し、中小のフォワーダーや荷主にまでサービスを提供するという。

上述したようにトレードワルツはNACCSと連携をしている。中小企業もBeyond TheBookを利用すれば貿易情報の一元管理も出来て、通関もプラットフォーム上で出来るのだ。


日本の9割以上は中小企業からなっており、中小企業が貿易DX化を進めていかなければ、業界は前に進まないと僕は考えている。

だからトレードワルツとフォーカスシステムズの連携は大きな一歩だったと思っている。

貿易のデジタル化による今後の働き方


貿易事務・実務の仕事がDX化することが出来たら、一般的な貿易業務はリモートワークで可能となる。リモートワークの度合いは企業によるのだが、仕事内容的には可能である。


そうすると地方在住の方や育児中のママさんでも、貿易の仕事を継続することが出来る。特に女性にとったら出産・育児のタイミングで、これまで勤めていた会社を継続できるかどうかは大きな要因だろう。

しかも貿易業界は人材不足だ。

優秀な人材に柔軟な働き方を提案することで強い企業として経営することが出来るはずだ。

まとめ

これまで貿易取引の流れと書類の種類に始まり、それをDX化をすることで どう効率化するのか、またそれにあたっての様々なプレーヤーの存在をご紹介してきた。

デジタル化を進めることは中小企業にとっては抵抗がある会社もあるかもしれない。しかし、作業を効率化するためにテクノロジーは日常でも多くの場面で利用されている。


テクノロジーで作業を効率化し、日々の忙しい業務から脱却して本当に重要な仕事が出来るようになる。

またこれから必要とされる人材は、ただ単に業務をこなす人材ではなく、新しいことが発見できたり、企画を立てられる能力だろう。

この記事を書いた人

イーノさん

イーノさん

飯野慎哉 - (株)HPS Link代表取締役社長。タイでHPS Trade Co.,Ltd 国際物流業者(フォワーダー)CEO。累計チャンネル登録者数8万人のLogistics YouTuber。 貿易・国際物流業界をもっとカッコ良くしたい。